ある経営者の方から、
「ビジョンって変えてもいいのでしょうか」
と質問を受けました。
その方は、1年ほど前に事業を組織化した際に、
それまで自分の中にだけあった事業イメージを、
ビジョンとして言葉で従業員に示したそうです。
その後、従業員も増えて環境が変わり、事業に対する視点が変化し、
自分の示したビジョンに違和感を感じてきたということでした。
あまり言葉の定義を振りかざすのは本質的ではないですが、
おそらくその経営者は、ビジョンとかミッションとかを一括りにして考えたので、
混乱したのではないかと察し、こういう返答をしました。
「基本的な考えとして、ミッションは不変であり、ビジョンは更新していくものです」
(参照)http://www.outbrain.jp/blog/Mission-01
ところで、そもそも「ビジョン」の目的は何でしょうか?
「ビジョンを設定すること」は、事業成長に対しては手段になります。
事業に関わる人たちの力を、ある1つの方向に集め、
事業の発展を推進するエネルギーを生み出すための手段と捉えます。
ところが印象としては、ビジョンというのは経営者の中に定められた、
その企業や事業の最終ゴール地点と捉えてしまっている人がいます。
そう考えてしまうと、そのビジョンをコロコロ変えてしまうのは、
経営者として軸がブレていると従業員などから思われてしまうのでは、
とビジョンを変更することを躊躇してしまうようです。
なので、「ビジョン」と「ミッション」は区別して使い分けましょう
と言っています。
ミッションは、事業の存在意義、その事業を行なう目的そのものであり、
基本的には不変なものと考えます。
世の中をどう変えたいのか、どんな良い世界を作り上げたいかといったもので、
とても大きなものを対象とした抽象的な言葉で表されることが多い。
究極のゴールであり、理想を示しているだけに、実際にたどり着くことはない。
その組織・事業の存在意義を示し、事業を進めていく方角・範囲の拠り所となるものです。
一方、ビジョンはそのミッションの実現を進めていくための、
ある時点での自社の事業の状態、あるべき姿を描いたもの。
ミッションが社会(世の中)にどうなって欲しいというのに対して、
ビジョンは、自分の事業がある時点でどうあるべきかをイメージしたもの。
なので、事業成長に伴ってビジョンを更新していくのは当然であり、
ミッション実現のために、事業内容の変更が必要となれば、
ビジョンを大きく書き換えても何も問題ないと言えます。
つまり、事業成長を推し進めるための「手段」なのだから、
臨機応変に最適な記述へと変更していいのです。
そもそも、事業を進めていくうちに、さまざまな要素が複雑に変化し、
自分の考え方、物事の見え方、自社が置かれている環境が
少しづつ変化していくのは、当然の流れです。
事業を成長へと引っ張っていく経営者として、
節目ごとにビジョンを見返して調整をし、
その時なりに、水晶のようなクリアーなビジョンへと
磨き上げていくことは事業経営おいて、とても重要なことです。
そのために、節目ごとに、確認の意味も含めて、
まずは経営者自身で、以下の事項を自問してみましょう。
・事業を通じて達成したいものは何か?事業を行なう意義、その目的は? <ミッション>
・今後10年間で実現したいことは? <ビジョン>
・3年後には、どんな状態でいたいか ? <ビジョン>
・直近1年間の目標は?
・直近3ヶ月の優先課題は?
「経営チームがうまく機能していない。
それほど規模の大きな会社ではないのに、社内政治が蔓延っている。
リーダー同士の関係がギクシャクしてコミュニケーションが悪い」
そのような嘆きを時々聞きます。
一般的に、事業組織が大きく成長するにつれて、
組織体制と各部門を担当する経営幹部の能力が、
事業サイズに対して不適合を起こすことは、
避けて通れない問題かもしれません。
企業の成長ステージで考えた場合、
創業期というのは、「人」ありきで組織を編成していかなければならない
というのが現実です。
理想的な組織体制を構想しても、それを埋める人がいないのだから仕方ありません。
規模もまだ小さく知名度もない時期では、入社してくれる社員の質にもバラツキが多く、
どうしても、限られた「出来る人」に多くの役割を担ってもらわざるを得ない。
結果、組織体制の最適化を図るよりも、まず「人」がいて、
その人に何をやってもらうかという順で考えるのがリアルな実情でしょう。
そして、その後事業成長が進んでいくと、「分業化」する時期がやってきます。
ようやく一人で多くの役割を兼任する体制から、
1つの役割に専任者を置くことができ、組織が分業化していくことになります。
ただし、ここで厄介なことが起こります。
それは、それまでに「できる人」を中心にして編成されていた組織体制の型に
引きづられながら分業化が進むことです。そのため、組織全体において、
担当業務の重複や責任部署が不明な業務が発生してしまいます。
では、このような状態に陥っている組織の体制を、
どう修正し最適化を図っていくか。
米国で多くのSMBC(中小・中堅企業)を支援しているギノ・ウィックマン氏は
Accountabilty Chartという考えを提唱しています。
私は、これを勝手に「AB-CHART」と呼んでいます。
これは、「機能」を軸にデザインしていく
組織構造のチャートです。
どの企業にも、一般的な階層構造の組織図があるはずです。
この組織図は、対外的には示す目的であれば問題ないのですが、
社内の実質的な役割分担を表すには、往々にして問題をはらんでいます。
なぜなら、多くの場合、「役職」「ポジション」に対して、
誰が配属されているかという点に主眼が置かれ、
肝心の業務執行の責任範囲が明確になっていないことが多いからです。
組織構造は、「人」ありきのポジション視点から作られるものではなく、
事業戦略を踏まえ、組織として最適な「機能」の配置から考えるべきです。
その思想を踏まえ、AB-CHARTは、ポジション、役職ではなく、
あくまで「機能」から作り上げていきます。
原型としては、まず上位から「ビジョナリー」⇒「統合者」⇒
「販売/マーケティング」「オペレーション」「ファイナンス」となり、
この原型からスタートして、カスタマイズしていきます。
たとえば、販売とマーケティグを分離したり、ファイナンスから人事やITを独立させたり、
というふうにです。
そして、「機能」から組織の構造を決めた後に、
最適な人材を割り当てていくという流れで作ります。
前回のコラム「経営者が主導する事業モデル変革」の
ステップ1で、
現行の事業モデルをシンプルな図解で整理する
ということを書きました。
ときどき、事業変革を進めるプロジェクトで、
「まず今の事業モデルを描くことから始めましょう」
と最初に話をすると、
「わざわざ現行のモデルを図解整理して議論する必要はないのでは?」
という意見をもらうことがあります。
理由は、
「今のビジネスのことは、長年やってきて知り尽くしているから、そこに敢えて時間を使うのはもったいない。早く新事業モデルの話を始めるべき」
または、
「今のビジネスの仕組みに意識を向けることによって、現行モデルに考えが執着してしまって、新しい革新的なモデルを発想することに悪影響があるのでは」
という考え。
後者は、かなり思慮深い方の意見だと思います。
まず「今のビジネスのことは、すべて知り尽くしている」という意見ですが、
事業変革を議論する場合、業務の詳細なところまで「知っている」というのは、
それほど役に立つことではありません。
「知っておくべき」ことは、現在のビジネスが成り立っているメカニズム、
事業全体の仕組みです。実務・業務の細かな話ではなく、自社のビジネスの特徴は何か、
事業として成立しているポイントは何かを理解していることが極めて重要です。
次に
「今のビジネスに意識を向けると、新しい発想を阻害する可能性がある」
という意見ですが、確かに、現行の事業モデルやオペレーションの状況に
深入りしてしまうことで、
そこに視点に引っ張られて、思考の伸び幅が
制限されることはあります。
ただし、現状を確認せず、全くゼロから考えるというのは、実はとても難しいことです。
特に、チームで議論する場合、現行の共通認識なくして、
「ゼロベース」で話合いましょう!からスタートすると、
何をどこから考え、何の革新的なアイデアが必要なのかも分からなくなります。
上述したように、ここでいう「現行モデルを描く」とは、
事業の詳細を記述するという話ではありません。
その全く逆で、現行のビジネスが成り立っているメカニズムの「骨格」だけ、
つまり簡略化、「モデル化」して捉えようというものです。
では、なぜ現行の事業を「モデル化」する必要があるのでしょうか。
それは、「創造は省略から生まれる」からです。
事業経営には、いくつもの要素があり、
それに伴い、さまざまな論点から事業成長が語られています。
そして、事業が成長してくためには、それらいくつもの要因が
全体として(システミックに)うまく機能することが必要です。
このことを理解した上で、私がいつも提唱しているのは、
成長し続ける事業設計に、最も重要な要素が2つあるということです。
それは、① 戦略的な「事業モデル」の設計と ②「オペレーション」を強化する仕組みです。
顧客が満足する形で、価値を提供し続ける「オペレーション」の質を高める仕組みと、
事業継続のために十分な再投資ができるだけの利益を得られる「事業モデル」が
設計されていること。
① 「グットニュース」では、売上好調、顧客からの感謝状、社員の出産など、
明るいポジティブな話からスタートして、ミーティングの雰囲気作りを行ないます。
その後、②〜⑤まで状況把握を行ない、⑥〜⑦で、問題・リスクに対して議論を行ない
アクションを決定します。 ⑧では、全体に対して連絡事項を共有します。
こういった通常オペレーションに関する経営会議を、
毎週あるいは隔週の頻度で、
同じ曜日の同じ時間帯に設定します。
「事業経営者の役割は何か?」
と問われたら、何と答えますか?
もちろん、個人事業主の延長で商売をやられている人であれば、
経営者自身で実作業を行ない、外部の協業者と連携してビジネスを回している、
従業員を雇用していれば、現場監督的な役割も担っているでしょう。
しかし、組織として事業経営をしている経営者であれば、
現場のマネジメントは、経営者の本来の役割ではありません。
それは、せいぜい部長レベルの仕事です。
経営者の役割は、大きく3つあります。
1) ビジョンの策定: 事業の方向付け
2) 事業システムの設計: 事業全体の仕組みのデザイン
3) リソース配分の最適化: (社内)投資の意思決定
よくビジネスの現場で、やみくもに
「○○に問題がある!」「××が問題です!」
と叫んでいる人がいます。
そんなときに、「それがなぜ問題なんですか?」などと聞いてみると、
「だって、問題じゃないですか?」と質問に質問で返答が返ってくることがあります。
問題とは、現状と理想(望んでいる姿・あるべき状態)との差・ギャップだと考えれば、
その理想な状態が分かってなければ、問題など存在せず、
その理想の姿を描けていなければ、問題をどの方向に解決すべきかも分かりません。
これは、ビジネスの現場の個々の問題に限らず、
事業・企業全体のレベルでも同じです。
将来の目指すべき姿、あるべき状況を「ビジョン」と言い換えると、
「ビジョン」と「現状」との差・ギャップを埋める活動が、
事業成長を生み出します。
目指すべき状況と現在の状況との間に差異があれば、
そこには、ストレスが生じます。
ちょうど1本のゴムを両端から引っ張ったような、
緊張状態です。